【序章】 声なき声に寄り添う ○あなたはもう、十分に言葉を尽くしてきた

【序章】 声なき声に寄り添う
○あなたはもう、十分に言葉を尽くしてきた
あなたはいつも、言葉を探していましたね。
誰人を傷つけないように。
自分の真意が、少しでも歪まずに、正しく相手の心へと届くように。
言葉を口にする前に、幾重にも思考を巡らせ、相手の表情を読み取り、空気を測り、最も安全で、最も波風の立たない表現を、細心の注意を払って選んできたはずです。それなのに、夜の静寂(しじま)が訪れると、一人静かに反省会を開いてしまう。
「あの言い方で、本当によかったのだろうか」
「冷たく聞こえてしまわなかっただろうか」
「なぜ、あんな風に受け取られてしまったのだろう」
眠りにつくまでの間、今日交わした些細な会話の断片を何度も何度も反芻(はんすう)し、その度に自分を責めて、密かに心をすり減らしてきたのではありませんか。
……よく、ここまで耐えてこられましたね。
あなたは、他者の感情に対してあまりにも敏感で、優しすぎるのです。
だからこそ、コミュニケーションの中で生じるわずかな摩擦や、かすかなすれ違いのすべてを、「自分の伝え方が至らなかったせいだ」と、その華奢な両肩に背負い込んでしまう。
相手の機嫌が少しでも損なわれれば、言葉足らずだった自分を呪い。
意図せぬ形で誤解されれば、言葉選びを間違えた自分を恥じる。
そうやって、常に「相手にとって都合のいい、分かりやすい自分」であろうと努力し続けることで、あなたは今日まで、なんとかこの複雑な世界を生き抜いてきたのでしょう。ですが、もう、終わりにしましょう。
その理不尽な自己責任論の檻(おり)の中で、一人で震えながら、血の滲むような努力を続けるのは、今日で終わりにしてください。
琴音堂は、そんなあなたのすり減った魂を癒やし、重すぎる鎖を解き放つために存在しています。
ここには、あなたをジャッジする者も、正論を振りかざしてあなたを追い詰める者もいません。あるのはただ、静寂と、和の情景と、ありのままのあなたを肯定する声だけです。
いいですか。これから、とても大切なお話をします。
あなたがどれほど言葉を尽くしても、誤解やすれ違いが生じてしまう本当の理由。それは決して、あなたの伝え方が悪いからではないのです。
あなたの語彙(ごい)力が足りないわけでも、思いやりが不足しているわけでもありません。あなたがこれまで抱えてきた「伝わらない罪悪感」は、そもそも背負う必要のない、全くの濡れ衣(ぬれぎぬ)だったのです。
さあ、ゆっくりと深呼吸をしてください。
そして、あなたが信じ込まされてきた「言葉の魔法」という残酷な呪いを、これから一緒に解いていきましょう。

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